〜DX時代を生き抜くための備え〜
近年、宿泊業界におけるデジタル化の流れは急速に加速しています。予約の多くがオンライン経由となり、PMS(宿泊管理システム)やOTA(宿泊予約サイト)との連携が日常的に行われるようになりました。私たち旅館も、この流れの中で効率的な運営を実現してきました。
しかし一方で、DX化の影の部分ともいえる「サイバー攻撃の脅威」も急速に拡大しています。大企業だけでなく、中小規模の旅館も被害対象となりうる時代に突入したのです。
今日は、ランサムウェアを中心としたサイバー攻撃の現状と、その被害が旅館業界にどのような影響を与えるのかを解説しつつ、中小旅館だからこそ取り組むべきセキュリティ対策について考えていきたいと思います。
大手企業を襲ったランサムウェアの衝撃
2023年には、食品業界の大手であるアサヒグループがランサムウェア被害に遭い、基幹システムが長期間停止するという事態が発生しました。出荷・発注システムが麻痺し、従来の「電話やFAXによる受発注」に戻そうにも、すでに業務は完全にシステム化されていたため容易に切り替えることができず、復旧には大変な時間を要している様子です。
この事例は、システム化が進んでいる企業であればあるほど、サイバー攻撃に対する脆弱性が顕在化することを如実に示しています。システム依存度が高い現代において、「もしシステムが止まったら?」という視点は、あらゆる業種に突きつけられている課題なのです。
旅行業界の現状とリスク
旅行業界も例外ではありません。
現在、宿泊予約の大半はインターネットを通じて行われています。電話予約は全体のごく一部にとどまり、OTAや自社ホームページからの予約が主流です。
さらに、宿泊者の個人情報(氏名・住所・電話番号・メールアドレス・クレジットカード情報など)はサーバーに保管されることが一般的です。つまり、一度システムが攻撃を受ければ、予約受付の停止だけでなく「個人情報漏洩」という深刻な二次被害にもつながるのです。
また、もし業界大手のOTAがサイバー攻撃を受ければ、その影響は全国の宿泊施設に波及します。私たちが直接攻撃を受けていなくても、予約システムが機能しなくなることで実質的な被害を被ることになるのです。
ランサムウェア被害の実態
ランサムウェアとは、システムやデータを暗号化し、それを解除するために「身代金」を要求する悪質なマルウェアです。
一度感染してしまうと、以下のような事態に陥ります。
- システムへのアクセスができなくなる
- 宿泊予約や会計処理が完全にストップする
- 顧客データが暗号化され、利用できない
- 二重恐喝(「支払わなければ暗号化解除しない」「支払わなければ盗んだデータを公開する」)
つまり、バックアップから復旧する以外に方法がないケースが大半なのです。
大企業でさえ復旧に数週間〜数か月を要することもあり、中小旅館にとっては致命的な打撃となりかねません。
中小旅館が直面する課題
中小規模の旅館では、新しいシステムの導入や運用に力を注ぐのが精一杯で、「サイバー攻撃」まではなかなか意識が及びません。
- 「セキュリティは専門家の領域」
- 「うちは小さいから狙われない」
- 「大手システムを使っているから安心」
このような意識が根強く残っています。
しかし実際には、攻撃は無差別に行われることが多く、規模の大小にかかわらず標的になるリスクがあります。むしろ、中小規模の宿泊施設はセキュリティ対策が十分でないとみなされ、狙われやすいという見方すらあります。
サイバー攻撃のターゲットは中小企業へ
2〜3年前から、海外のサイバー犯罪グループが日本企業を狙う動きが報告されていました。当初は大企業が標的でしたが、その後はシステムのサプライチェーンを通じて中小企業へと被害が拡大しています。
たとえば、大手OTAや予約管理システムが攻撃を受けた場合、そのシステムを利用する中小旅館も連鎖的に被害を受ける可能性があります。
「自分たちは小規模だから関係ない」と考えるのは非常に危険です。むしろ、規模が小さいからこそ、復旧のための資金や人材が不足し、致命的な経営危機に陥るのです。
セキュリティ対策は「事前対応」がすべて
セキュリティは、被害に遭ってから対策を講じても手遅れです。感染してしまえば、取り返しのつかない損害が生じます。だからこそ、「事前の備え」が何よりも重要なのです。
具体的には以下のような取り組みが必要です。
- 定期的なバックアップ
- オフライン保存(USB・外付けHDD)
- クラウドとの併用
- システム・ソフトの更新
- OSやPMSを常に最新版にアップデート
- アクセス管理
- 強力なパスワード
- 二要素認証(2FA)の導入
- IP制限によるアクセス管理
- 従業員教育
- 不審なメールの見分け方
- USBや不正ソフトの利用禁止
- 外部専門家との連携
- セキュリティベンダーへの相談窓口を持つ
- ITリテラシーを持つスタッフを数名確保する
DXとセキュリティは一体
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を進める際、セキュリティ対策は必ず同時に行うべきものです。
システム導入に予算を割く旅館は多いものの、セキュリティ対策は「余裕ができたら」と後回しにされがちです。
しかし実際には、セキュリティ対策はシステム導入と一体でなければならないのです。
「便利さ」だけを追求しても、ひとたび攻撃を受ければ、その便利さが裏目に出て経営を揺るがします。
業界全体への波及リスク
宿泊業界は、個々の旅館が単独で完結しているわけではありません。OTAや決済システム、観光プラットフォームと深く結びついています。
そのため、もし業界のどこか一部が攻撃を受けても、全体に影響が及びます。
- OTAが停止 → 新規予約が一切入らない
- 決済システム停止 → クレジットカードが使えない
- PMS停止 → チェックイン業務が混乱
つまり、業界全体がセキュリティに取り組まなければ、自分たちの宿も安心できないという現実があります。
中小旅館にとって、サイバーセキュリティは決して「他人事」ではありません。むしろ、限られた人材・資金で経営を行う中小だからこそ、被害を受ければ致命傷となりかねない分、より強く意識する必要があります。
セキュリティ対策は、「導入すれば終わり」ではなく「継続して守る」ものです。
そして、DX化を進めるときには必ず「セキュリティ」という両輪を意識しなければなりません。
私たちの旅館にとって大切なのは、安心して泊まっていただける環境を守り抜くこと。
お客様の個人情報と信頼を守るために、今こそ業界全体でセキュリティを真剣に考える時が来ています。
ホテル玉之湯 内藤幸宏より


2025年10月5日


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2025年10月3日


2025年9月30日
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2025年9月28日


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