~宿泊施設としての電話番号公開とその現状~
はじめに
ホテルや旅館にとって、電話は今でも大切なお客様との窓口です。
予約やお問い合わせはもちろん、細やかなご要望やご相談を直接伺えるのは、インターネット予約が主流となった現代でも「電話」だからこそ可能なことです。
しかし一方で、電話番号を公開することによって、私たち宿泊施設が直面している問題もあります。それが 営業電話の急増 です。
本記事では、当館「浅間温泉ホテル玉之湯」での日常を交えながら、「なぜ宿泊施設は電話番号を公開する必要があるのか」「実際にどのような営業電話がかかってくるのか」「その影響と当館としての対応」について、率直にお伝えしたいと思います。
なぜ宿泊施設は電話番号を公開するのか
1. お客様からの予約・問い合わせのため
宿泊施設の使命は「お客様に安心してご滞在いただくこと」です。
予約はもちろん、「アレルギー対応は可能ですか」「車いすでも利用できますか」「宴会場の広さはどれくらいですか」など、細やかな相談は今でも電話を通じて多く寄せられます。
とくに高齢のお客様にとっては、インターネット予約サイトよりも、電話で直接スタッフに確認できる安心感が大きな理由となっています。
2. 緊急時の連絡手段として
旅行は時に予定変更を余儀なくされます。突然の体調不良や交通機関の遅延など、緊急の連絡はやはり電話が一番早く確実です。
当館でも「列車が遅れて到着が遅れる」「急なキャンセル」などの連絡をいただくことがあります。電話番号を公開していなければ、こうしたスムーズなやり取りは難しくなるでしょう。
3. 信頼性の証として
電話番号が公式に記載されていることは「この宿はきちんと存在している」という信頼の証でもあります。インターネット上には多くの情報があふれていますが、連絡先が不明確な宿は、やはり不安を与えてしまいます。
実際にかかってくる営業電話の実態
ところが、この「電話番号公開」が原因となって、宿泊施設には日々多くの営業電話がかかってきています。
1. 広告・集客サービスの営業
最も多いのが「広告を出しませんか」「SEO対策をしませんか」という営業です。
インターネット時代、宿泊業にとってネット集客は生命線です。そのため、多くの業者が売り込みにやってきます。
ただし実際には、内容が似たり寄ったりで費用対効果が不透明な提案も少なくありません。
2. 電話回線・通信機器の営業
「電話料金が安くなります」「最新の光回線に切り替えませんか」など、通信インフラ関連の営業も頻繁です。
確かにコスト削減は大切ですが、宿にとって電話回線は生命線。安易に切り替えられない事情があります。
3. 金融・投資・補助金関連の営業
「補助金の申請を代行します」「有利な融資があります」という電話もよくあります。
補助金や制度を活用すること自体は大切ですが、電話口で即決できるものではなく、むしろ不安を感じることも多いのが実情です。
4. その他多種多様な営業
清掃サービス、備品販売、人材派遣、マイクロバス買取、さらには不動産関係まで…。
宿泊施設の電話番号は公開されているため、まるで「営業リスト」のように扱われているのではないかと感じるほど、多方面からのアプローチがあります。
実際にあった営業電話のエピソード
こうした営業電話の中には、驚くような内容のものも少なくありません。
ある日、当館にかかってきた電話は、開口一番この言葉から始まりました。
「御社はM&Aに興味はありませんか?」
宿泊業を営む立場からすれば、あまりに唐突で違和感のある一言です。
M&Aとは、本来であれば宿の未来を左右する重大なテーマであり、膨大な資料の精査や綿密な調査、そして何より「信頼できる相手」との長期的な話し合いが欠かせません。
ところがその営業担当者は、続けてこう述べました。
「ホームページを拝見しましたが、しっかり業務に取り組んでいらっしゃる企業様だとお見受けしました」
一見すると丁寧に聞こえる言葉ですが、内容は抽象的で、当館の実情を理解している様子は全くありません。
ましてや、M&Aを持ちかけるのであれば、金融機関や顧問税理士など、信頼関係のある専門家から話があるのが筋です。
見ず知らずの相手から、いきなり電話一本で「M&Aに興味は?」と問われても、話を進めることなどできるはずがありません。
むしろ、「なぜそんな大切な話を電話営業で持ち込むのか」と逆に不信感を抱いてしまいます。
私が「M&Aを検討するような企業ならば、いきなり電話で営業するような方法は避けるべきでは?むしろ疑われますよ」と伝えたところ、その担当者は「じゃあ、どのような方法があるのですか?」と開き直るような返答をしました。
これには正直、唖然としました。
お客様を迎える日常業務の中で、軽々しく未来を揺るがすような話題を持ち込む姿勢こそ、信頼を損なう最大の要因だと痛感しました。
この経験からも分かるのは、 本来であれば重みを持つテーマであっても、唐突な電話営業という形式で差し込まれると、その真剣さは一気に失われてしまう ということです。
営業電話がもたらす影響
スタッフ業務の妨げ
最も大きな影響は、 本当に必要なお客様からの電話が取りにくくなる ことです。
営業電話の対応で時間を取られてしまい、予約や問い合わせのお客様をお待たせしてしまうことは、宿として避けたい事態です。
精神的なストレス
フロントや予約係は常に緊張感を持って電話に出ています。「お客様からの大切な連絡かもしれない」と思うからです。
しかし、営業電話が続くと「またか…」という疲労感が溜まり、接客への集中力にも影響を及ぼすことがあります。
宿全体の効率低下
電話対応の時間が長引けば、裏方の業務や館内対応に支障が出ます。宿は限られた人数で運営していることも多く、ほんの数分の積み重ねが業務効率に大きく影響するのです。
当館の取り組みと考え方
「まずはお客様優先」の姿勢
当館では、電話に出た際に営業かどうかを瞬時に判断し、必要のないものは速やかに終了するよう心がけています。
ただし、そのために「お客様かどうか」をしっかり確認することを怠らないよう、常に丁寧な第一声を大切にしています。
営業電話対応のルール化
スタッフ間で「営業電話と思われる場合の対応ルール」を共有しています。
例えば、詳細は聞かずに「必要であればこちらからご連絡します」と伝えることで、時間を最小限に留める工夫をしています。
電話以外の窓口の整備
公式ホームページには「お問い合わせフォーム」を設けています。お客様が気軽に質問できるようにしつつ、営業電話の負担を減らす工夫もしています。
宿泊施設と電話の未来
時代はオンライン予約やチャット対応へと移行しつつありますが、旅館やホテル業界では「電話の役割」はまだまだ大きいのが現状です。
むしろ「人の声で安心できる」「直接相談できる」ことは、これからも宿の強みであり続けるでしょう。
その一方で、営業電話という現実とも向き合わなければなりません。
将来的には、AIによる自動応答や番号識別の技術がさらに発展し、「本当に必要な電話だけをつなぐ」仕組みが広がるかもしれません。
私たちの思い
ホテルや旅館が電話番号を公開しているのは、お客様のためです。
安心して予約・相談していただくため、そして緊急時に迅速に対応するため。
しかし現実には、その善意を逆手に取るような営業電話が後を絶ちません。
私たち宿泊施設にとっては、「お客様との大切な窓口を守る」ことと「不要な営業電話への対応」の両立が課題となっています。
当館としては、これからも お客様の声を最優先 にしながら、こうした現状と向き合ってまいります。
ホテル玉之湯 内藤幸宏より


2025年10月10日


2025年10月5日


2025年10月5日


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2025年9月30日
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