松本 浅間温泉 ホテル玉之湯

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2025年10月14日
身近な「AI効果」とは?

~ホテル業務の中に息づく“見えないAI”たち~

はじめに:AI効果って何?

最近、「AI効果(AI Effect)」という言葉を耳にする機会が増えました。
この言葉は、人工知能(AI)が社会やビジネスにどのような影響を与えているかを示すときに使われます。
ただし「AI効果」と言っても、人によって思い浮かべるものはさまざまです。ChatGPTのように自然な文章を生成したり、画像を描いたりする“生成AI”を指すこともあれば、日常的な業務の中で静かに働いている“見えないAI”も含まれます。

多くの方が「AIって難しそう」「自分の仕事とは関係なさそう」と感じてしまうのは、ChatGPTのような対話型AIの話題が先行しているからかもしれません。
しかし、実務の現場ではAIはすでに長年、私たちのすぐそばで働いています。ホテルや旅館業界においても、それは例外ではありません。


実はずっと前から、AIはホテルの中にいた

私たちが日々使っているホテルシステム――いわゆる「PMS(Property Management System)」や、「サイトコントローラ」と呼ばれるオンライン予約管理システム。
これらにもすでにAI的な要素が数多く組み込まれています。

例えば、

  • ある予約サイトで1室予約が入ると、他のサイトの在庫を自動で1室減らす
  • 指定された日付・部屋タイプ・プランを自動的に割り振る
  • 稼働率や宿泊実績を自動で集計し、帳票を生成する
    これらは一見単純な動作に見えますが、実は「ルールベースAI」と呼ばれる仕組みの上で成り立っています。

「ルールベースAI」とは何か?

ルールベースとは、その名の通り「ルールに基づいて動くAI」です。
人間があらかじめ「この条件が起きたらこう動く」というルールを定義しておき、その通りに処理が行われます。
つまり、人が考えた手順や判断基準を、コンピュータが忠実に実行してくれる仕組みです。

例えばこんな具合です。

  • 「楽天トラベルから予約が入ったら、PMS上の○月○日の“和室ツイン”に割り振る」
  • 「キャンセルが入ったら、全サイトの在庫を1室戻す」
  • 「宿泊日ごとに稼働率を自動計算し、翌月の予測レポートを出力する」

これらはすべて、AIがルールに従って処理している結果です。
つまり、私たちはすでに“AIと共に働いている”のです。


ChatGPTのような生成AIとの違い

ChatGPTなどの生成AIは、ルールベースとは違い、「人間が書いた膨大なデータを学習して、自分で文章を組み立てる」能力を持ちます。
対して、PMSやサイトコントローラで使われているAIは、人間が設定した“ルールの枠内”で動く仕組みです。

生成AIは「柔軟に考える」AI。
ルールベースAIは「正確に再現する」AI。

この2つは目的も仕組みも異なりますが、どちらも私たちの業務を支える大切な技術です。
つまり「AI効果」とは、この2種類のAIがそれぞれの持ち場で活躍し、人の仕事を補助し、効率化し、ミスを減らしているという“全体的な恩恵”のことを指すのです。


「AI効果」はすでに日常の中にある

AIと聞くと、「将来の話」「大企業の話」と思う方もいるかもしれません。
しかし、実際は私たちの現場業務にも密接に関係しています。

たとえば玉之湯でも、以下のような業務はすでにAIによって効率化されています。

  • 予約の在庫連動
     →各予約サイトと自動で部屋数を同期。オーバーブッキング防止。
  • 部屋割り情報の自動反映
     →サイトコントローラからPMSへのデータ連携。手入力ミスを防ぐ。
  • 稼働率・売上分析
     →宿泊実績データを自動集計し、グラフやレポートに出力。
  • 帳票作成・通知機能
     →宿泊名簿、食事人数表、請求書などを自動生成。

これらの多くは「AI」という言葉を意識せずとも使っている機能です。
つまり、AI効果とは「知らないうちに恩恵を受けている」という点にこそ価値があるのです。


“使いにくい”システムの裏側にも理由がある

一方で、「このシステム、なんだか使いにくい」「操作に時間がかかる」と感じることもあるでしょう。
その多くは、実はルール設定が施設の運用ルールに合っていないことが原因です。

PMSやサイトコントローラは、多様な宿泊施設に対応するため“汎用設計”になっています。
そのため、導入直後は「ベンダー(システム会社)から納品されたままの状態」で使い始めることが多く、
結果的に、自館の運用ルールと微妙に噛み合わないまま業務が続いてしまうケースもあります。

例えば、

  • 帳票の出力項目が現場の実務に合わない
  • 特定のプランだけ特別なルールを適用したいのにできない
  • 表示順や警告通知のタイミングが現場の感覚とずれている

こうした問題も、実はルールベースの設定次第で改善できる場合が多いのです。


システムベンダーとの“対話”が鍵

AI時代のDX推進において、最も大切なのは「人間側がAIと上手に対話できること」です。
それはChatGPTのように自然言語で話しかけるという意味だけでなく、
PMSや予約システムのようなルールベースAIに対しても同じことが言えます。

担当者がベンダーに対して、
「この帳票をこの形式で出せますか?」
「この項目を自動で反映できませんか?」
「この通知の条件を変更できますか?」
と具体的に要望を伝えることで、システムの中身が改善されることがよくあります。

このやりとりこそが、DX推進の本質です。
「AIが自動で何とかしてくれる」わけではなく、
「人がAIのルールを整えることで成果が出る」――これが、ホテル現場のAI活用のリアルです。


DX担当者の役割:AIと人の橋渡し

ホテル玉之湯でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上で意識しているのは、
「システムを入れること」ではなく、「システムを自分たちの仕事に合わせること」です。

DX担当者の仕事は、単なるIT導入ではありません。
現場のスタッフが実際に感じている“使いにくさ”や“手間”を拾い上げ、
それをベンダーやシステムに伝えて最適化する――まさに“人とAIの橋渡し役”なのです。

この視点を持つことで、次のような変化が生まれます。

  • 現場スタッフが「なぜこの操作が必要か」を理解できる
  • システムの動作を“ブラックボックス”として扱わなくなる
  • トラブル発生時に原因を自分たちで探れるようになる
  • ベンダーとの関係が「依頼・受託」ではなく「共同開発」に変わる

AIの進化よりも大切なのは、AIを正しく“使いこなす人”の存在です。


これからのAIと旅館業務

今後、ホテル業界では生成AIの導入も進むでしょう。
たとえば、

  • 宿泊者への自動メール返信の文章作成
  • 英語や中国語への自動翻訳
  • 予約データからの需要予測

こうした分野ではChatGPTのようなAIが力を発揮します。
一方で、客室の管理や在庫調整、帳票出力などは引き続きルールベースAIの領域です。
つまり、今後は「生成AI」と「ルールベースAI」が共存する時代になります。

AIがどれだけ進化しても、現場の“おもてなし”そのものは人の心が生み出すもの。
だからこそ、AIの力を理解し、上手に頼ることが重要なのです。


「AI効果」は気づくことから始まる

AI効果とは、
「AIを導入したから成果が出た」という単純な話ではありません。
むしろ、「AIがすでに身近にあることに気づき、それを正しく活かせるようになること」。
これが、真のAI効果なのだと私は考えます。

ホテル玉之湯でも、システムの向こう側には“人の意図”があり、
AIはその意図を形にするための“道具”として働いています。

DX担当としての私の使命は、
その道具を正しく理解し、現場がより働きやすくなるように整えること。
AIは遠い未来の技術ではなく、今まさに私たちの中に息づいている「共働者」なのです。

ホテル玉之湯 内藤幸宏より



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